9月から毎週のように届くアップデート通知。CodeXとClaude Codeを追いかけ続けた創業者が、ある夜ふと立ち止まった。技術への没入は正しかったのか。顧客は本当にこれを求めていたのか。スピードを追うことと、正しさを問うことの間で揺れた記録。
9月の第一週から、Discordの通知が鳴り続けた。CodeXのベータ版に新機能、Claude Codeのコンテキスト上限が倍増、UIが刷新、APIレスポンスが平均1.3秒短縮。毎週何かが変わった。
私はそのすべてを試した。深夜2時まで検証し、朝には社内Slackに報告を投げた。「今回の更新で、リファクタリング時間が前回比で約40%削減できそうです」。数字を出せば、チームは納得する。経営判断として正しいと信じていた。
10月に入っても加速は続いた。コード生成の精度向上、マルチファイル編集対応、エラー検知の自動化。できることが増えるたび、既存の設計を見直した。先月導入したばかりのワークフローを、もう一度作り直す。追いつくことが、仕事になっていた。
ある金曜の夜、顧客との定例会議があった。私は最新機能のデモを用意していた。でも、先方が求めていたのは別のことだった。「先月お願いした帳票出力の改修、まだですか」と聞かれた。優先順位を、間違えていた。
私も、技術を追うことが目的になっていた。
最初は顧客のためだと思っていた。新しい技術を取り入れれば、より良いプロダクトが作れる。工数が減り、品質が上がり、顧客に還元できる。そう信じて走り続けた。
でも、振り返ると違った。私が興奮していたのは、技術そのものだった。CodeXの新UIを触るときの高揚感。Claude Codeで生成されたコードが一発で動いたときの達成感。顧客の課題ではなく、私自身の知的好奇心が、判断を動かしていた。
社内の開発メンバーにも無理をさせていた。「今週中にClaude Codeの新バージョンで全プロジェクトを動かしてください」と伝えた週、一人のエンジニアが体調を崩した。彼は何も言わなかったが、Notionの作業ログを見れば分かる。連日23時までコミットが続いていた。技術を追うことで、私は人を削っていた。
立ち止まって、問い直した。
10月の第三週、意図的にアップデート通知をオフにした。Discordをミュートし、リリースノートを読むのをやめた。3日間、何も追わなかった。
その間にやったのは、顧客へのヒアリングだった。5社に連絡を取り、今困っていることを聞いた。返ってきた答えは、最新技術の話ではなかった。「請求書のフォーマットを変えたい」「エラー時の通知を日本語にしてほしい」「操作マニュアルが欲しい」。地味で、でも切実な要望ばかりだった。
私たちが9月から注力していた機能は、その中に一つもなかった。顧客が求めているのは、最新のAI進化ではなかった。安定して動くこと、困ったときに相談できること、約束した納期を守ること。当たり前のことだった。
開発の優先順位を作り直した。まず、先月積み残していた帳票機能の改修。次に、エラーログの日本語化。新技術の検証は、週に1回、金曜の午後だけと決めた。CodeXとClaude Codeは使い続けるが、追いかけるのはやめた。必要なときに、必要な範囲で導入する。
2週間で、顧客からの問い合わせ対応時間が平均3.2時間から1.8時間に減った。約束していた機能を3件納品できた。チームの残業時間も、週平均で4.5時間減った。スピードを落としたのに、成果は増えた。
うまくいかなかったこと。
ただ、全員が納得したわけではなかった。一人のエンジニアは「最新技術を触れないなら、ここにいる意味がない」と言った。彼の気持ちは分かる。技術者として、常に最先端にいたい欲求は自然だ。
私も迷いは消えていない。今この瞬間も、Claude Codeの新機能が試せる状態にある。触らない選択が、本当に正しいのか。顧客のためと言いながら、自分が技術から逃げているだけではないのか。答えは出ていない。
AI進化の速度は、これからも上がり続ける。追いかけ続ければ疲弊する。でも、追わなければ取り残される。その間で、どう立つか。正解はまだ見えていない。