AI導入の可否判断で迷うのは、評価軸が曖昧だからだ。データ分類・利用範囲・ツール選定の3軸で整理すれば、セキュリティを担保しながら導入を進められる。AzRunが実践している判断基準と、実際に起きた事例を公開する。

稟議が止まるのは、リスクが見えないからではない

「Claude を使いたい」という申請が、情シスで2週間止まっている。セキュリティ担当者は拒否したいわけではない。でも、承認する基準がない。

「データが外部に送信される」ことは理解している。問題は、それが「どの程度のリスクか」を説明できないことだ。経営層は「競合も使っている」と言う。現場は「生産性が上がる」と主張する。その間で、担当者だけが板挟みになる。

リスク評価が曖昧だから、判断も曖昧になる。私たちが複数の企業でAI導入を支援してきた中で見えたのは、評価軸がないまま「全面禁止」か「野放し」の二択になっている現場だった。

必要なのは、禁止でも許可でもなく、分類だ。

データ分類で、AI導入判断の8割は決まる

私たちは、扱うデータを4つに分類している。公開情報・内部資料・顧客情報・機密情報。この分類で、使えるツールと使い方が変わる。

公開情報は、すでにWebサイトやブログで公開しているもの。これはChatGPT有料版でもClaude Proでも問題ない。リスクは、ほぼゼロだ。AzRunでは、記事の構成案作成や、公開済みコンテンツの要約にこの範囲で使っている。

内部資料は、社内の議事録や業務フロー図。外に出ても致命的ではないが、出さないほうがいい情報。ここから先は、ツールの選定基準が変わる。Claude for WorkやChatGPT Enterpriseのように、学習に使われない契約が必要になる。利用規約を読み、DPA(Data Processing Agreement)が結べるかを確認する。AzRunでは、社内向けのプロンプト設計やSlackログの分析に、この基準で運用している。

顧客情報と機密情報は、別の扱いが必要だ。ここはAI導入の可否ではなく、「どう匿名化するか」「どこまで人が介在するか」の設計になる。契約書レビューで顧客名を伏せ字にする。財務データを要約する前に、金額を相対値に変換する。完全に自動化せず、出力を人が確認してから次工程に渡す。

この4分類を決めるだけで、現場の申請は8割方さばける。「このデータは第何分類?」と聞けば、使えるツールが自動的に決まる。

利用範囲を「誰が見るか」で区切る

データ分類と同じくらい重要なのが、AIの出力を誰が見るかだ。

社内だけで完結するなら、精度が多少低くても許容できる。議事録の要約が7割の精度でも、元の記録が残っていれば問題ない。でも、その出力を顧客に送るなら、話は変わる。AIが生成した提案書を、そのまま送信していいのか。誰が最終確認するのか。

私たちは、利用範囲を3段階で整理している。「本人のみ」「チーム内」「社外」。

本人のみで完結するものは、リスクが低い。コードの下書き、アイデアのブレスト、メールの構成メモ。出力を見るのは本人だけで、そのまま外に出ることはない。ここは積極的に使う。

チーム内は、出力を複数人で確認する前提。Notion AIでドキュメントを生成し、チームで加筆修正してから公開する。Slackのスレッド要約を、関係者全員が読める状態にする。ここでは「AIが間違えても、誰かが気づく」設計が鍵になる。

社外に出すものは、必ず人がレビューする。顧客向け提案書、契約書、請求書。これらをAIに任せきりにはしない。生成はAI、判断は人。この線引きを明文化しておく。

AzRunでは、「社外」に分類される成果物は、必ず代表を含む2名以上が確認してからSlackの承認スタンプを押すルールにしている。この運用で、過去8ヶ月間、AIによる誤送信は一度も起きていない。

ツール選定は、契約内容で決める

ツールの選定基準は、機能ではなく契約だ。「学習に使われるか」「データの保存期間は」「DPAが結べるか」。この3点を確認する。

無料版のChatGPTは、入力内容が学習に使われる可能性がある。これは、公開情報以外には使えない。有料版のChatGPT PlusやClaude Proは、学習に使われない設定が可能だが、エンタープライズ契約がないと監査ログが取れない。

AzRunでは、現在Claude for WorkとChatGPT Enterpriseを併用している。契約書で「入力データを学習に使用しない」条項を確認し、DPAを締結した。監査ログはSlackに定期送信され、誰が何を入力したかを追跡できる状態にしている。

ツール選定で迷ったら、まず利用規約を読む。「Training」や「Model Improvement」の項目を探し、オプトアウトが可能かを確認する。企業向けプランがあるなら、営業担当に「DPAは結べるか」「ログ保存期間は何日か」を直接聞く。回答が曖昧なら、そのツールは見送る。

分類すれば、導入は止まらない

私たちがこのフレームワークを使い始めてから、AI導入の稟議が止まらなくなった。申請者が「第2分類、チーム内利用、Claude for Work」と書けば、セキュリティ担当者は過去の承認事例と照合するだけで判断できる。

重要なのは、すべてを許可することではなく、すべてに基準を持つことだ。「これは使えない」と言える基準があれば、「これは使える」とも言える。AI導入判断は、技術的な問題ではなく、分類と運用設計の問題だ。

もしあなたの組織で、AI導入の申請が止まっているなら、一度このフレームワークを試してほしい。完璧である必要はない。まず分類し、運用しながら改善する。私たちも、まだ途中だ。